帝王切開の症例紹介時に犬の出産について少し触れましたが、もう少し掘り下げて行こうと思います。
犬の妊娠期間
交配から分娩までの日数:63日程
この日数から出産予定日を大まかに把握する事ができる。
その為、交配日の把握は大変重要です。
妊娠診断法
①腹部触診法:交配後25日以降に評価できる
※肥満犬や神経質な子では検査が困難になる
②超音波画像診断法:
交配後22日以降→胎嚢(胎仔と胎水)が認められる
交配後25日以降→胎仔の心拍動が観察できる
③X線診断法:交配後45日以降
※胎仔の頭の大きさが産道を通るかなどを判断
④その他:血中リラキシン濃度、急性C反応性蛋白濃度など
妊娠母体の栄養管理
〇交配から妊娠4週まで:通常の維持飼料
〇妊娠5週から妊娠8週まで:
胎仔が急速に成長する為、食事を徐々に増加(20~50%増)
〇妊娠8週から分娩まで:
・50%増の食事量を維持
・子宮が腫大するため、1日数回に分けて食事を与える
・分娩時の体重は妊娠前の20-50%に増加
・分娩直前になると食欲が低下する
※悪阻(つわり)
・妊娠3週間前後に食欲不振や嘔吐を起こすことがある
・通常、2-3日で治まる事が多い
分娩兆候
〇出産2週間前~:胎動・腹部膨満
〇出産数日前~:頻尿・下痢・軟便・乳汁分泌
〇出産前日~当日:営巣行動(巣作り行動)・食欲低下・嘔吐
〇出産直前:体温低下・陰部を舐める
パンティング呼吸(頻呼吸)・膣から血様/粘液状の排出物
※体温低下:平均直腸温が-1℃を示してから20‐24時間後に分娩
直腸温が最低値を示してから9‐12時間後に分娩
正常分娩の経過(3ステージに分けられる)
①開口期(分娩第1期)
・子宮出口付近の弛緩・拡張する時期
・子宮の収縮(陣痛)、パンティング呼吸(頻呼吸)、営巣行動
②産出期(分娩第2期)
・子宮出口が全開に開き、胎仔娩出までの時期
・腹部の緊張(努責)を伴う強い陣痛
・外陰部を舐めて気にする様子
③後産期(分娩3期)
・胎仔娩出~後産(残存した胎盤)排出までの時期
※①の後、胎仔の娩出ごとに②と③を繰り返す
正常分娩の場合の娩出間隔は、5-120分と様々
難産を疑う兆候
出産が上手くいかない場合は陣痛促進剤の使用や帝王切開を考慮しなければならない。
難産の判断基準は前回の「犬の帝王切開」で記載しているのでご参照下さい。
自然分娩前の準備
・営巣行動(巣作り行動)に向けた場所の確保
・清潔なタオル:仔犬を取り上げる際や体を拭く際に使用します
・糸:母親がへその緒を上手く処理出来なかった際に縛るもの
・煮沸消毒したハサミ:
へその緒を切るのに使用します。
雑菌が付かないように煮沸して消毒しておきます。
・秤:仔犬の体重を測るためのもの
・哺乳瓶+ミルク:初乳が出なかった際に使用する
分娩の介助
通常、分娩後には母犬が自らへその尾を嚙みちぎり、自分で胎膜を破って、胎仔を舐めまわして呼吸を促します。
しかし初産・緊張しやすい犬は上記の行動を示さない事もあります。
その際には、人間が代わりに仔犬の介助を必要とします。
①胎膜を手で引き裂いて頭から丁寧に仔犬を取り出します。
②へその尾を体から1-2㎝くらいの所で糸で縛ります。
③糸よりも少し離れた所を清潔なハサミで切ります。
④仔犬を清潔なタオルで包み首から背中にかけて撫でます。
→自発呼吸を促進し、産声を挙げるようになります。
長いと5分くらいかかる事もあるので諦めずに続けましょう。