猫の先天性横隔膜ヘルニア

前日に2-3ヶ月齢程のオス猫を保護し、呼吸状態が悪いとの主訴で当院へ来院されました。

呼吸促拍(呼吸回数の上昇)および軽度のチアノーゼが観察され、レントゲン検査を実施し、胸腔内に臓器の存在を認め、横隔膜ヘルニアと評価致しました。造影剤を投与してみると、胸腔内に入り込んだ腸内に造影剤が流れている事が観察されました。

呼吸状態が悪い事から、早急に手術を実施致しました。

胸腔内に腸などの腹腔内臓器が観察されました。

造影検査後:造影剤が胸の中にある腸に流れている、胸に内臓がある分お腹が細い事に注目

開腹後の所見:矢頭を境に横隔膜が欠損している、青矢印は心臓

欠損部を補填する為に腹膜を剥離してフラップを作成

片側の欠損部をフラップにて整復

反対側の欠損部も同様に整復

中央部の欠損を縫合し、ドレーンを設置

閉腹して終了:内臓がお腹に戻りお腹が膨れているのがわかる

猫の横隔膜ヘルニア

横隔膜ヘルニアには大きく分けると「先天性横隔膜ヘルニア」と「外傷性横隔膜ヘルニア」に分類されてます。

本例は前者で、生まれつき横隔膜の形成不全があり、腹腔内臓器が胸腔内へと移動してしまっていました。外傷性は、交通事故などの強い外傷に伴い、横隔膜に裂傷が生じることで起こります。

内臓が胸腔内に移動する為、肺の換気が上手くいかず低酸素症などの呼吸機能不全を起こします。

治療

治療は手術によるヘルニア孔の整復になります。

「外傷性」の場合は横隔膜の裂傷に伴う為、発症から時間経過が少なければ臓器の癒着も少なく、裂傷部の縫合のみで治療が可能です。しかし本症例の様に、生まれつき欠損している症例は欠損部が広いためヘルニア孔を埋める工夫をしなくてはなりません。

術後24時間以内に重篤な術後合併症(再拡張性肺水腫など)が起こる事が多く、猫の術後死亡率は14%と非常に高いため、術後管理がとても大変な手術です。

2022年08月02日